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俺?CEOだよ。社員いないけど

めんどくさいことばかり考えている25歳起業家「黒なんとか」の日記。頭の整理のためにゴミを投下します。

【書評】「ぼぎわんが、来る」 (あ、これめっちゃ怖いやつや。アカン)


 今年で第22回を数える日本ホラー大賞だが、今年は大賞が澤村伊智「ぼぎわんが、来る」に決まった。過去には貴志祐介、岩井志麻子などの「うわ...こえぇ」と心の底から思わせる才能のある作家がこの賞で大賞を獲ったが、近年はホラーというものが広義化し、「ん?これホラーかなぁ...」という受賞作品も散見されるようになり少しがっかりしていた。もちろん広義化しようが、良い作品は良い。泣けるホラーなんていう変化球も、ありなのかもしれない。だが、俺のような古参?ホラーファンは本当はこう思ってるはずだ。いや、ちゃうねん。こちとら独りでお風呂入るの躊躇するくらい怖がりたいねん」と。

やってくれましたよ、「ぼぎわんが、来る」が。ぼかぁね、今夜独りでお風呂に入るこたぁできませんよ。

ぼぎわんが、来る (角川書店単行本)
KADOKAWA / 角川書店 (2015-10-30)
売り上げランキング: 1,730

 

 

 ぼぎわんってなんですか?怖すぎます

 
この本の恐怖は謎の生物「ぼぎわん」によってもたらされるわけですが、この生物の描写は最終局面までかなり曖昧です。特に序盤は「よくわからないけどむちゃくちゃ殺傷能力が高い化物」として猛威を振るいます。何より怖いのは姿形がはっきりしないこと、意思疎通ができないこと、行動パターンがあまり読めないこと、などでしょう。

 

人間は時として想像で現実を補う生き物です。おそらく「ぼぎわん」はあまりにも謎が多い生物なので、僕達読者は勝手に想像を膨らませて闇雲に怖がっているのでしょう。「なんだよ、じゃあ適当にぼかした化物描写すりゃ怖がるってことかよ」と思いますか?僕はそう簡単じゃないと思います。これをいざ自分が作者として狙う、つまり読者に「形容しがたい」恐怖を与える、となると、非常に難しい。実際、「ぼぎわん」は物語半分くらいまでは「あぁぁぁぁぁぁ怖いよおぉぉぉぉぉ」という対象なのですが、作者のツメが甘いのか途中から(僕の場合)「ん?これハリーポッターのアズカバンのめっちゃ怖いやつに似てね?」となって、恐怖が急激に失速していきます。「めちゃめちゃ怖かった」想像が「既出の化物」の現実に収束していってしまったのです。ここでもし「めちゃめちゃ怖い」現実に収束する作品だったなら、僕はおそらく失禁してましたし、間違いなく後世に残るマスターピースになっていたことでしょう。それくらい「なんだかよくわからないけど怖い」という感情を読者に喚起させるのは、難しいことなのです。この技術に関して、作者はかなり長けていると思います。本当に素晴らしいです。

オチは残念ながら工夫が足りない


 この本は「ぼぎわん」が怖すぎるというアイデア勝負の本なので、オチというオチはありません。実際、大オチはかなり序盤で暗示されていますし、相当鈍い方じゃなければなんとなく「ぼぎわん」の正体とは言わないまでも出現の理由はわかっていたと思います。感が鋭いホラーファンなら、「やたらおじいちゃんの介護が丁寧なおばあちゃん」が出てきた最初の時点で「こいつぁ、臭いぞ」と思われたでしょう。なんせネット系のホラー話に似たような話がたくさんありますからね。作者がどこからインスピレーションを受けたのかはわかりませんが。

端的に言って、話の筋はどこかで聞いたものが多い。ただ一つ素晴らしいなと感じたのは、地方伝承の化物の話に夫婦間の子育ての諍いや虐待、産後ブルーなど、現代社会の問題を上手く取り入れていたことです。実際、僕が一番感情移入できたのは田畑夫妻の子育てに潜んだ闇でしたし、これは読み進めるまで真相がわかりませんでした。「ここまで酷いイクメン詐欺野郎はちょっと現実にはいないだろぉ」とも思ってしまいましたが。どうも「ぼぎわん」がネチネチとこの一族につきまとったのはこの「大きく崩れた夫婦間のパワーバランス」のせいかもしれません。

賛否両論の霊媒師の存在意義


 Amazonのレビューでも「ラノベみたいでがっかりした」と言及している方がいますが、この作品の後半は「最強女性霊媒師」が現れて「ぼぎわん」をやっつけるという、中高生にも薦められる若干ポップな展開になっています。率直に言って、これに関しては僕は「なんともいえない」です。もし女性霊媒師を出現させないなら、「ぼぎわん」が恐怖を与え続けるまま終わるバッドエンドにするのが読者をどん底に落とすホラーとしては最適解だと僕は思います。しかし、作者は女性霊媒師がハッピーエンドをもたらす(まぁさしてハッピーではないのですが)ほうを選択しています。これはもう、作者の好みとしか言えないでしょう。僕も正直「どん底ホラー」のほうを期待していました。しかしながらこのハッピーエンドを「最悪」と断罪したいかというと、そうでもないです。というのも、この女性霊媒師とその仲間たちが中々面白いキャラで、続編を書こうと思えば書けるものになっています。せっかくバッドエンドにしなかったなら、是非続編を書いてほしいです。「ぼぎわん」と同じくらい怖いものを創造するのは作家として非常に難しいとも思いますが、これだけの作品が書けるなら次に期待する価値は十分にあります。

 

おわりに

 

お風呂マジ無理。髪洗ってる時にぼぎわん来ちゃう。


ぼぎわんが、来る (角川書店単行本)
KADOKAWA / 角川書店 (2015-10-30)
売り上げランキング: 1,730